不動産関連業界をわたり歩くおじさんの思い出話2

コラム2(不動産賃貸の思い出)

 

 【滞納と明渡し】

(1)家賃滞納者の対応

  大学院を出た2000年、まだ就職氷河期と呼ばれたように記憶しています。

  私は、法学の大学教員を目指していましたが、残念ながら成果が上がらず断念し、就職活動もしましたが、いわゆる大手といわれる会社に勤めることができず、最終的に関西の小さな不動産屋に勤めることになりました。

  動機は、前年に宅地建物取引主任者(現、宅地建物取引士)の試験に合格したこと、不動産取引には法律が関係する領域が多く、法律を勉強してきたことが行かせるのではないかという単純なものでした。

  その不動産屋では、特に入社試験も無く、すぐに働くことになりました。とはいえ、社会人経験もなかったので、しばらくは不動産賃貸営業を先輩から実地で学んでいくことにました。

  ところが、すぐに社長から法律を勉強したことを活かして家賃滞納者の処理をやってもらいたいとの指示を受けました。どうやら、滞納処理に関するノウハウが十分ではなく、そのまま放置されている例が多かったようです。

 当初、30件程度の滞納者のリストを渡されて処理することになりました。

 会社のルールがなかったので、私はまず普通の葉書を使い大きな文字で賃料の支払いをお願いする文書を作成し、リストの全件に郵送をしました。葉書に大きな文字を使えば、当然督促状のような文章にはなりません。「家賃を滞納されているようですので、お支払いください。間違っていたらごめんなさい。」というような簡単なものです。

 それでも、おもしろいことに、約半数はこの葉書を受け取っただけで家賃を支払ってきました。

 実は、私が大学院にいたときに、民事訴訟の先生から、裁判所から裁判に出るように促す文書(訴状・呼出状)を送っても応じない人が多かったので、ある裁判所が試験的にこれとは別に簡単な文章で呼出を促す葉書を送ったところ改善されたという話を聞いたことがあったのですが、これを応用しただけなのです。

 葉書であれば、開封などの手間無く読むことができ、読んだ人にとって気になることが書いてあればそれに対応するという心理を突いた方法なのだと思います。

 次に、反応のなかった全件の戸別訪問をすることにしました。直接賃借人との話し合いができるほかに、賃貸物件の場所を確認できるというメリットが入社間もない私にはあったからです。

  この方法で、残りは片手で納まるまでになりました。

  ここから先は、保証人を攻めてみようと思った頃でした。実績が評価されたのか、社長から「まだ大変な滞納がいくつかある」と言われ、資料を渡されました。これがそのあと続く本格的な滞納処理と明渡し作業のはじまりでした。

 

(2)手強い相手?

  関西の不動産屋では、約1年間で大小あわせて50件以上の滞納案件を処理したように思います。金額にして、1,500万円くらいはあったように記憶しています。小さなものはワンルームの家賃数万円から大きなものは事務所家賃2年の滞納、ファミリーマンション家賃4年半滞納など数百万円のものまで様々です。もちろん、全額回収できなかったものもありましたが、私が与えられた案件は全件一応の決着をつけました。

  私の経験では、約8割までは、直接会う、手紙などの手段をつかうという方法で督促をすれば解決ができました。そこから漏れる賃借人とは数ヶ月から1年弱にわたる長期戦がスタートすることになります。

  私は、直接会いたいとお願いしても無視をしている賃借人に対しては、まず現地調査をしてそこで生活をしている痕跡があるかの確認をしました。次に保証人と連絡がとれるか、保証人からの回収が可能かという点を調査しました。

  くりかえしになりますが、賃借人であれ、保証人であれ、まずは話を聞く(相手の事情の確認)が基本です。うっかりこちらのミスで誤った督促をした場合には、今後の関係が悪くなってしまいますし、一旦賃借人に有利な状況を与えると後に不必要な利益を与えかねないからです。ですから、まずは話を聞き、こちら側の提示する資料などに誤りが無いかを双方で確認します。また、相手方にとって突発的事情があったことを無視して取立てだけを進めると思わぬ反撃にあう危険性もあります。なかには話をしているうちに泣き出す人や逆ギレする人もいますが、この手順をきちんとすればこちらに不利になることはありません。

  会えなかったり、手紙の督促では反応が無かったりした人でも、次に保証人を巻き込んだり、巻き込もうとしたりすることで約9割までが解決しました。やはり他人を巻き込むことへの抵抗感や後ろめたさがあるように思います。

  最近では、家賃の滞納をオーナーに保証するビジネスが発展していますが、賃借人は通常保証料を支払っているのですから、身内や知人を保証人にすることに比べれば、家賃の滞納について抵抗感はともかく後ろめたさはあまりないように感じます。

  さて、ここまでやってもまだ解決の糸口が見えない人々、手強い相手がわずかながらいます。私の経験上も大口(数年の滞納、百万円を超える滞納)の人たちでした。簡単にご紹介をしていきましょう。

 

(3)身内から見放された女

  九州から大阪に出てきた20歳代前半の女性がいました。どうやら、実家で親と喧嘩をしたらしく勘当されてしまったようです。

  大阪で仕事を見つけ、月額6万円のワンルームマンションを借りて1人暮らしを始めましたが、しばらくして体調を崩したらしく、仕事ができなくなり、滞納が始まりました。

  私がこのワンルームマンションのオーナーから滞納の相談を受けたのは、滞納がはじまって3ヵ月後のことでした。このオーナーはそのマンションの1室を自己使用していました。当初オーナーの意向は退去させたいというものでした。

  私は、法的に退去させることの手間と費用、さらに一定の時間経過が必要になるので、まずは賃借人と話をしたうえで退去へと進めていくべきだという提案をしました。このオーナーは、とりあえずということで私の提案を受け入れてくれたのです。

  さて、問題の賃借人の女性、なんとオーナーの目の前の部屋に住んでおり、毎日の出入りが確認できるとのことですが、オーナーの呼びかけには一切対応をしないそうです。

 そこで、まず私は督促状を折りたたんですぐには読めないような形でドアノブに貼り付け反応をうかがいました。2、3日しても反応はありません。そこで、保証人である知人に督促状を送り、また女性には退居をお願いする内容の手紙を貼り付けました。今度の手紙は、退去をお願いしますという部分だけがよく見るとわかるようにしました。

 すると翌日、早速女性から事務所にいる私宛に電話がかかってきました。私はこれまでの女性の対応から一旦は対面で交渉をしなければならないと思い、事務所に来てもらうことにしました。女性の場合、密室での話は違う問題にすりかえられる可能性があると思ったので、はじめの交渉は同僚を同席させました。

 交渉をすると女性は、滞納の事実は争わず、親から勘当された身で今の家を出たら行く先が無いこと、現在は夜の仕事で生活しているが、賃料を支払うまでの余力がなくなっている、保証人は今回の件で困惑し相手をしてくれないという話をしました。私は、聞くだけ聞いた上で、滞納が解消されない限り、オーナーは退去してくれることを希望している。今すぐに本人、保証人が支払えないのであれば、その支払いを保証する別のものが必要であるという話をして、その日は帰らせることにしました。

 数日後、女性は、夜の仕事の関係者(お客さん)と思われる男性を連れてやってきました。「この人が保証人になってくれます」というものでした。その男性に保証人になることについての確認をして、簡単な契約書を作成して記名、押印をしてもらいました。実際に回収ができるかは不明でしたが、滞納している女性が退去だけは避けたがっていることが明確だとわかりました。念のため、女性の実家にいる父親に連絡をしました。保証人ではないので、督促の電話ではありません。女性が退去した場合に実家に戻ることができないかを確認するためです。結果は、娘とは縁を切っているという話を一方的にされただけでした。

 私は、この時点で、毎月の支払額も6万円と他の物件に移ってもあまりメリットがないという点を考えて、この女性は退去を迫る方法で滞納の解消を図っていく方針を立てました。退去を迫ることが何よりのプレッシャーになっていたからです。

 案の定、この方針を採って以降の毎月の家賃は支払われるようになりました。しかし、これまでの滞納が支払われません。この状態はその後女性が結婚して退去する日まで続きました。

 最終的に、この女性はすべての清算をして退去したのですが、その間1年弱だったように記憶しています。私がこの女性を入居期間にそれ以上追い詰めなかったのには理由があります。女性は、消費者金融からの借入で家賃の支払いをしていたのです。女性の郵便ポストに多くの金融機関からの督促状がきているのがわかりました。もし、これ以上に未納分を支払えと日々迫ったらどうなるでしょう。多分、もっと面倒くさい問題が発生していたでしょう。新たに保証人になった男性もその後行方をくらましてしまいました。

 この問題が解消してしばらくたったある日、この女性が私を訪ねてきました。理由を聞くと破産をしたいというものでした。私は、法律相談を仕事する資格がないので、手続や書類の作成方法だけアドバイスしました。今はどうしているのでしょうか。

 

(4)プライドの高い老女

  私の経験のなかで最も大変だった案件です。

  ある家主から月額12万円の家賃をもう4年以上滞納している賃借人がいるという相談をされました。私は、滞納者もさることながら、家主もよくぞここまで放置をしたなあと内心思いました。少し話しを聞くと、賃借人は老女(70歳代)でかつては貴金属を扱う商売をしていたが、滞納が始まった頃からは商売はできない状況になっていたようで、督促にも居留守などで応じないというものでした。また、その家主は保証人への督促をしていませんでした。

  早速、私は面談をしようと連絡をしたのですが、直接の訪問、電話連絡、手紙などの手段を講じましたが連絡がありません。仕方が無いので、老女の保証人(娘婿)へ督促状を送付しました。

  すると数日後、連絡がとれなかった老女が直接事務所を訪ね、私が保証人に督促状を送ったことに対する怒りをぶつけてきました。私は、一通り話が終わるのを待ち、滞納の事実確認をしました。老女は、支払いができないのだから仕方がないと開き直ります。

  しかし、4年以上も滞納をしながら生きているわけですから生活費が無い筈はありません。私は、そのような話をしながら多少の金銭を持っていると確信しました。そこで、私は、今すぐ退居を要求されずに交渉を続けたいのであれば、少しずつでも支払うように求め、あわせて今の持ち合わせでたとえ1,000円でもよいから支払うように求めました。

  すると老女は、1,000円くらい支払えるということで、その場で1,000円を支払ってきました。そこで、私は、領収書を作成し、そこに○年○月分以降の延滞金○円のうちの1,000円を正に受領しましたという文言を入れ、老女に手交しました。老女も何を書いてあるかを確認するため読み、わかったということで次回の交渉日時を数日後に決めたのでした。

  1,000円を支払わせたことを偉そうに書くなという方もいらっしゃるでしょうが、私もそう思います。しかし、大切なのは過去の滞納について認めさせることで債権の消滅時効を中断させることに意味があったのです。5年を過ぎた家賃債権は消滅時効を主張される可能性があるのです。これを1,000円支払わせた際に領収書で確認させ、消滅時効の中断事由である「債務の承認」をさせたのです。

  数日後、今度は今後の支払い計画について話をしました。話を聞くとどうやら現在の収入では契約にある家賃を支払うことはできないようです。そこで、私は、支払いの問題は別にして、まずは退去して現在の収入に見合う物件に移るように提案しました。

  すると、老女は、自分の生活が脅かされているので、弁護士を登場させると一方的に捲くし立て、その場を去っていきました。

  それから数日して、弁護士を名乗る方から私に連絡があり、老女の件で話をさせて欲しいと言って来ました。私も、訳のわからない交渉をするよりはよっぽど楽だと思い、早速伺うことにしました。事務所に伺い対面すると本物の弁護士さんでした。聞くと昔、老女が商売をしていたときからの付き合いだそうです。そして、本題に入ることになり、私は滞納の事実関係、交渉経緯などについて時系列で資料とともに説明をしていきました。

  私が一通りの説明を終えると弁護士さんは老女の方を向き、「この話は全面的にあなたが悪い」と言い、老女はうつむいてしまいました。老女としては、私の悪事を弁護士さんにしかってもらい今の生活を続けようと思ったようですが、法律を前提に物事を考える弁護士さんには通用しなかったということでした。

  結局、この弁護士さんに助けられる形で、老女は数ヵ月後に退去させることに成功しました。また、滞納額のうち半額は保証人からも支払われ、保証人は残額について保証を免除しました。残額は老女が少額ながら返済するという約束も交わされました。

  こうして長い戦いは一応の決着となったのです。

 

(5)仕事が無くなった家族(1)ある内装業者

  私の経験でも内装業者の滞納は、片手くらいはあったように思います。そのなかでも一番記憶に残っているお話です。

  内装業を営むこの男(40歳代前半)は、内装業者として少し前までは、随分仕事があり稼いでいたようで、再婚した20歳代後半の若い妻と幼児の3人で月額15万円の3LDKのマンションに入居していました。

  私がこの一家の滞納問題を処理するようになったのは、滞納が始まって1年くらい経った頃でした。当初は家主もこの一家の「もう少し待ってくれ」という返事にそのうちまとめて払ってくれるのではないかという気持ちでいたようですが、さすがに待ちきれないといったところで私に依頼をしてきたのです。

  私は、早速この内装業者の男に会って話をしました。まずは、滞納の事実の確認、次に現在の収入、今後の支払いについての意見を聞いていきます。なるほど、家主がこれまで聞いてきた内容のとおり、滞納の事実は家主の認識と同じであり、現在は仕事が少ないが今後は大丈夫だというものでした。

  そこで、私は視点を変えて、滞納金額が15万円×12ヶ月=180万円もあり、遅延損害金を含めるとさらに金額が大きくなること、家族の生活費、幼児が大きくなったときの生活費を考えた場合の支出からすると今後の収入が相当増えなければ、状況が好転することはありえないという話をしました。

  すると、内装業者の男は、しばらく黙ります。私は、まずは退去して安い物件に住み直すこと、滞納については保証人(実母)と相談することを提案して、その結果を聞くための次の面談の日時を設定しました。

  その面談の日、私は提案の回答を聞くとどちらも難しいと言います。このままでは仕方ないので、保証人である実母に私から直接連絡すること、退去については家主と相談のうえ、解約の通知を発送することの2点を伝えました。また、支払可能な金額についての支払いを求めることも忘れません。

  このような面談の結果、一部の支払いがはじまり、退去に向けた動きが見られるようになりました。ただ、保証人である実母は、高齢で年金以外の収入も無く、大きな財産もありませんでした。仕方が無いので、家主と相談の上、払える金額を支払ってもらうことで解決を図りました。

  それから、3ヶ月ほどが経過したある日、事務所に私宛に若い女性から電話がありました。内装業者の若い妻からでした。話を聞くと、「滞納をはじめてから今までずっと不安でした。ようやく新しい生活の場が決まり、ほっとしました。相談させてもらってよかった。」という内容で泣きながら話していました。緊張から開放された瞬間だったのでしょう。

  この一家は、少額ながら毎月数万円を支払うという条件での契約書を交わし、新しい住まいへと引越していきました。

 

(6)仕事が無くなった家族(2)あるクリエータ

  この話も不幸にして仕事が激減した男(40歳代前半)とその家族の物語です。

  一見してサラリーマンではないという風貌の男は、フリーのメディアのクリエーターをしているといい、妻と高校生進学を控えた娘の3人で月額13万円のマンションに暮らしていました。このマンションのオーナーから1年くらいの長期滞納者がいるとの相談を受けて対応をすることになりました。

  物件は私の勤務先のとなりだったこともあり、まずは直接訪問を試みました。オーナーの話だと、督促をしてもあれこれ理由をつけて支払いができないということで、また最近は居留守を使っているとの話でした。私は、これでは退去をさせることを念頭において交渉しなければならないなと感じました。

  やはり私が直接訪問をしても居留守を使われました。そこで、「退去のお願い」という文言だけがわかるようにした手紙を貼り付けるとすぐに事務所に滞納者本人がやってきました。

  男は低姿勢ではあるものの滞納についてはあまり気にしていないといった様子でした。私が資料を基に百数十万円の滞納があることの確認をしても、そうだと思うといるだけで、どうやって支払いをするかについてはこちらが聞いても答えません。保証人に連絡をするといっても所在がわからないと答えます。仕方がないので、私は男に対して、保証人に連絡をすること、退去を前提に交渉を進めることを伝えました。反対に、男からは、妻は病気なので交渉は自分だけが行うこと、娘に知られないように進めたいことを要望してきたので、今後の交渉に必ず応じることを条件に了承することにしました。

  それからすぐに私は保証人に連絡をとることにしました。保証人は男の元仕事仲間でした。まず手紙で連絡をしたところ、保証人がその住所にいないとの理由で返送されてきました。私は、男に、賃貸借契約に記載がある「保証履行の能力がなくなったこと」(=所在不明であれば保証履行の請求すらできない)を理由に別な保証人を要求することを考えました。しかし、この男は自分に不利益が及ばない限りは動かないと思ったので、何か手はないかと考えることにしました。

  もう一度賃貸借契約を見直していると保証人の住民票が出てきました。よく見ると本籍地の記載もあり、大阪市内にあることがわかりました。そこで私は「戸籍の附票」をとることにしました。「戸籍の附票」とは、本籍地にその人の住所の記録が示されたものです。この戸籍の附票を見れば現在の住所がわかる仕組みになっているのです。

  保証人の戸籍の附票を見たところ、現在の住所も大阪市内のマンションになっていることがわかりました。そこで、現地調査をした上で再度この住所に手紙を送ることにしました。現地調査をした理由は、住んでいるマンションが分譲マンション(個人所有)であれば、強制執行ができると考えたからです。残念ながら、この保証人の場合、賃貸マンションでした。

  数日して連絡があったのは、保証人ではなく、男からでした。どうやら保証人の所在を知らないといったのは嘘だったようで、保証人から連絡を受けて慌てたといった様子でした。男は、保証人には迷惑をかけられないという話をしますが、この男との交渉は何も進展がありません。私は非情になり、家賃の支払いも退去の話もできないのであれば、保証人の強制執行を検討する以外に方法はないと話しました。

  ここに至ってようやく男から、解決策についての話を切り出すようになりました。しかしながら、相手のペースで進めても駄目なことはすでにわかっていたので、保証人にはあって話をすること、支払いの計画を提出すること、転居先を探すことの3点を行い、1週間以内に進捗を報告させることにしました。

  それから数日後、私は男を通じて保証人と会うことができました。どうやら保証人も男と同じような境遇で十分な保証能力はないようでした。しかし、私は保証人に、今後支払いや退去に関して、男が非協力的な態度をとったときには保証人の財産調査をあらためて行い強制執行の手続きをとる旨を伝えました。それは支払いをさせるというためではなく、今後の男との交渉を有利に進めるための手段としてでした。

  このあとは、一部の支払いがはじまりました。しかし、会うたびに思ったのは、生活水準がそれほど悪化していないのではないかという疑問でした。そこで、私は支払いの交渉において支払い金額が現状の家賃を下回るときは、娘の進学に準備するであろう資金を差し押さえるという話をしました。これにはさすがに弱った様子で、以降の支払いはギリギリのところまで支払うようになりました。現状家賃を下回るときは必ず報告に来ました。

  そうして、半年くらいが過ぎた頃、男から公営住宅への転居先が決まったという報告がありました。ちょうど娘の進学前だったこともあり、よいタイミングでした。

  男からは、意外にも私に対する感謝の言葉がありました。とはいえ、滞納が解消した訳ではないので、その話をしなければなりません。結局、オーナーの同意もあり、少額ではあるものの毎月返済をしていくという方法をとることになりました。

 

(7)経営悪化で払えない

  ある日、勤務先の社長からすでに退去した者からの回収はできないかという相談を受けました。話を聞くと、私の勤務先の会社が所有する事務所をある会社に賃借していたが、1年前に長期滞納を理由に契約を解除して退去をさせたとのこと、問題は、滞納分の支払いおよそ300万円が未だにないということでした。また、滞納をした会社の代表者は現在体調を崩し療養中で、専務が会社を取り仕切っているとのことでした。

  これまでは、呼び出して話を聞いていたようでしたが、この専務もいつも言い訳ばかりで話が先に進むことはなかったということです。

  私はまず、社長にお願いしてその専務と話をする機会をつくってもらうことにしました。実際に会ってみると人の良い感じのする青年で働いても働いても裕福にならないといった感じの人でした。しかし、それだけでは話が前進しないので、返済計画を作るように促し、1週間後に会うことにしました。

  私は、その会社が今も続いているなら収入が無い訳がないと考え、現在の会社所在地の現地調査をすることにしました。その会社は事務所や店舗のデザインと飲食店舗の運営をしていました。現在の会社所在地には、会社の事務所スペースのほか、飲食店舗が併設されていました。私は現地調査をしていることがばれないように朝、昼、夜と数日かけて様子を伺いました。飲食店舗には客を装って入り、食事をしながら様子を伺います。そこからわかったことは、商売としては成立しており、従業員への支払いもあるようだということでした。

  そこで、その後会社に伺い専務と交渉をしていくことにしました。

  専務にこれまでのことを話し、滞納分の支払いができないのであれば、然るべき調査をいれて回収を図ると伝えました。すると、言い訳もせず、仕方ないと言った様子で「支払いはするが全額は厳しい」という話をはじめました。私は、支払いの金額如何では社長と和解交渉をすると伝え、具体的な金額を示すように伝えました。専務はいくらならという目線を聞きたがりましたが、社長と私の間では何の交渉もなかったので、その話は専務から具体的に支払える金額を聞いた上で社長と交渉するとだけ答えました。

  この話を社長にすると、回収ができそうだということでとても喜ばれました。和解をする場合について相談したところ、「できるだけ多く」というだけであとは任せるという同意を取り付けました。

  数日後、再び専務と交渉をしました。専務からは、50万円で勘弁してもらえないかという話でしたので、私はすぐに却下し、約300万円の滞納であるから、少なくとも200万円、すぐに払うというのであれば、半額の150万円でないと無理であると言いました。交渉は決裂かとも思ったのですが、専務は税理士と相談して回答すると言いました。

  結局、専務は会社の資金の段取りをつけて150万円を即金で支払い和解をすることになりました。私が和解の契約書を作成し、社長、専務、税理士の三者の了解を得て、調印と支払いがあり、無事一件落着となったのです。

  この件があった数年後、私が東京で生活をしていたある日、夜のニュース番組を見ると関西の野球チームが優勝したということで大阪市内の様子が映し出されていました。よく見ると私が現地調査をした会社の店舗で祝勝会をする様子が映し出されていたのです。

  「やれやれ専務頑張っているな」と微笑んだ一瞬でした。

 

(8)逃げ切った(?)男

  ある物件のオーナーから呼ばれ、物件の明渡しと滞納の回収をすることになりました。

  ちょうど季節が秋から冬にかわりはじめた頃でした。

  月額10万円のマンションに20歳代後半の職業不詳の青年が住んでいました。このマンションにはオーナーの妹が管理人として住み込んでいたため、当初の督促はオーナーの妹がしていました。私に相談があったのは、一向に解決に至らないというのがその理由でした。

  管理人であるオーナーの妹に聞くと、その職業不詳の青年は当初サラリーマン風だったとのことですが、いつの頃からか何をしているのかわからないような生活に変わっていたといいます。督促のため部屋を訪問しても不在なのか、居留守なのかもわからず困っているということでした。

  私は、話だけではわからないのでどうやって会おうか考えました。案の定、直接訪問は反応がありません。次に、退去をお願いする手紙をドアノブに貼り付けましたが、これまた反応がありません。仕方が無かったので部屋の前で「張り込み」をして待つことにしました。

  何時間待ったのか、空が暗くなり、寒さも身体に堪えられなくなってくるようになった頃、やや長髪の青年が部屋に戻ってきました。私は、粗暴的な態度をとることも予想して身構えていましたが、意外にもおとなしい感じの青年でこちらの問いかけに素直に答えてきました。

  寒さが気になりましたが、青年の部屋に入り予想外の反撃を受けても困るし、近くに適当な交渉スペースも無かったので、その場で滞納の事実の確認と青年の話を聞くことにしました。

  青年は仕事が忙しく滞納にも気付かなかったといいます。しかし、仕事内容は語らず、滞納の督促のことも無視を決め込むといった感じでした。私は、寒さのこともあり、あまり長く話をするつもりもなかったので、まずは契約のとおり毎月の家賃の支払いを約束させ、次に滞納の解消方法として毎月の支払い時に少し上乗せして支払わせることも約束させました。

  それから、しばらくして家賃の支払い時期を迎えましたが、約束は守られませんでした。

  私は、仕方がないので保証人との交渉を考えました。保証人は青年の母親で大阪近郊の町に住んでいることになっていたので、早速現地調査をすることにしました。

  しかし、保証人がいるはずの住所に保証人はいませんでした。すでに別の場所に引っ越してしまっていたようです。青年もこの保証人である母親も本籍はわからなかったので、これ以上の追及はできませんでした。

  また振り出しに戻った感じはしましたが、再び青年に会うために再度「張り込み」をしなければならなくなりました。今度は、厚めのコートで防寒対策を十分にしました。

  今度も夜になって青年が帰ってきました。少し驚いた様子でしたが、態度などは以前と同じでした。私は、滞納が続くのであれば、退去をしてもらいたいと告げ、また連絡に応じないのであれば、外出を確認後、入室ができないようにする措置を講じることがある旨も伝えました。

  その後、しばらくしてオーナーから突然退去していなくなったという連絡を受けました。私としては、滞納分の回収が何もできなかったので悔しい限りだったのですが、オーナーは退去させてくれてよかったと意外にも喜んでいました。

  それからまたしばらくしてのことです。このオーナーから私に電話がありました。話を聞くと青年が詐欺で逮捕されていたというのです。どうやら事件の捜査で警察からオーナーに青年の様子について聴取をしていたようでした。

  あのとき退去させていなかったら、、、私はオーナーが喜んだ理由がわかった気がしました。

 

(9)原状回復

  不動産賃貸の仕事といえば、物件の入居を思い浮かべるのが普通だと思いますが、不動産のオーナーから管理もまかされていれば、当然退去時の立会い、清算作業などにもかかわることになります。その際、原状回復という言葉をめぐってしばしばトラブルになることがあります。

  「原状回復」とは、「借りたときの状況に戻す」ということで、通常の賃貸借契約では賃借人が負担するものになっています。賃貸借契約は、一定の時間の経過を前提にしている話ですから時間の経過に伴う劣化(経年劣化)についての回復は必要ないと考えるのが通常だと思います。具体的には、壁や床に傷をつけてしまった場合はその部分の補修をすることが原状回復にあたりますが、日焼けによる畳、ふすま、クロス(壁の張り紙)の通常の劣化は原状回復の対象にはなりません(ただし、タバコのヤニは原状回復の対象です)。

  最近では、「原状回復ガイドライン」なども登場していますが、賃貸管理の現場では、原状回復の範囲、費用をめぐるトラブルがまだまだ多いように思います。

  トラブルの原因は、家主側の過剰な費用請求にあります。

  具体的には、原状回復の費用に本来家主が負担すべき修繕の費用や家主側の利益が余分に含まれていることがあるのです。

  もちろん、すべての家主がやっていることではありませんし、賃借人と契約で一定の範囲や金額についてきちんと合意している場合がほとんどです。この種のトラブルはやはり「法外な」請求と感じるかどうかがポイントになるのかと思います。私は、詳細な法律やガイドラインが必要であるとは思いません。家主側の「法外な請求」の判断こそが重要だと思います。現在、ほとんどの原状回復は家主や業者主導で進められ、賃借人の立場は不利になりやすくなっています。相見積もりや他の業者の適性判断などの方法が取られることが一番の不正防止になると思います。

  私も原状回復にまつわる「思い出」がいくつかあります。大きなトラブルはないのですが、退去時にごみだけでなく、家財道具を片付けずにいなくなる賃借人がいました。賃借人に連絡をしようにも連絡がとれず、結局は保証人であった親の同意を得て、敷金(保証金)をつかって処分をしました。また、ワンルームマンションを借りていた学生が退去して原状回復費用を請求したところ、親から費用が高すぎるというクレームが受けたことがありました。しかし、退去確認時の写真を送ったところ、とても汚いわが子の部屋を見た親からは「申し訳ありません」という返事があっただけでした。

  この問題は、いつまでもなくならないような気がします。

 

(10)悪臭

  この話も大阪で働いていた頃の話です。

  あるマンションのオーナーから私に、入居者から隣室から異臭がするので対応して欲しいとクレームがあったので調べて欲しいという依頼がありました。私がそのマンションに行くとそのマンションは外壁の工事中でした。「外壁を工事しているなら塗料などの臭いかな」などと思いながら、クレームのあった部屋の前につくと、何日も風呂に入っていないような人の臭いが強烈にします。目からも涙が出てきます。

  事務所に戻り、その部屋の賃貸借契約を確認すると借主は医師なのですが、事務所の人間に聞いたところ、その医師は名義上の借主で実際には、その父親と妹が住んでいるということでした。収入の無い2人を医師の住まいとは別のところで養っていたということのようでした。また、この部屋にはペットがいるということもあわせて聞きました。

  しかし、あの部屋の臭いはペットだけではないと直感的に思い、とにかく状況を確認しなければいけないと思い、再度問題の部屋に向かい入居者と話をしようとしました。

  呼鈴を押してしばらくすると中から借主の妹と思われる人物がペットを連れて出てきました。その場から逃げたくなるような臭いでしたが、会話をしないと問題は解決すらしないと思い、少し離れながらもその妹と思われる人物に話しかけました。

  「近隣からあなたの家から変な臭いがするという苦情がありますよ」と私が言うと、「うちは問題ありません」とだけ言い、その妹と思われる人物はドアを閉めてしまいました。

  仕方なく、借主の医師に連絡をしましたが、忙しいから対応できないといわれました。仕方がないので保証人に連絡してみることにしました。保証人は、借主の医師の妹でマンションに住んでいる妹の姉にあたる人物でした。

  私は、この姉に電話で異臭がすることを話し、協力を求めました。しかし、彼女はそんなことはありえないと言うだけで、取り合おうとしません。どうやら父と妹を自分たちから隔離して生活をしたがっていたということだったようです。

  さすがに私もその対応に冷静さを失い、「死体みたいな臭いがするのだから、とにかく行ってみてください。このままだと退去してもらいますよ。」と喧嘩腰にその姉にどなりつけてしまいました。すると今度は、それにカチンと来たその姉が「死体なんて失礼なことを言いましたね。許しませんよ。今から行きますからね。」と応酬してきます。もはや喧嘩です。その姉はもう少し怒りをぶちまけた後に一方的に電話を切ってしまいました。

  後から考えるとこの会話が事態の解決を早めることになったのです。

  これはまずいと思い、これまでの経緯を社長に話して、その姉が来るのを待つことにしました。しかし、その日その姉が連絡をしてくることはありませんでした。

  そして、翌日、その姉から私に電話がありました。今後は昨日とは打って変わって丁重な物腰です。「昨日は大変申し訳ありませんでした。電話の後にマンションにいったら、話をされたとおりでした。今後は、きちんと対応をさせますので、退去をさせることだけはお許しください。」というものでした。

  その後、クレームはなくなり、一件落着しました。私は、得意げにこの一件を事務所の先輩に話しました。すると先輩は、「おまえ死体の臭いを知っているのか」と返してきます。話を聞くと、先輩は2、3年死体が放置されている部屋に立会いをしたことがあったそうです。退去したと思っていた老人がそのまま部屋にいて死体は溶け出していたというのです。なんでも取り壊し予定だったその物件は、新たな入居者もなかったためそのようなことが起こったのだそうです。

  その話を聞いて以降、私は老人の滞納の場合、まず部屋の臭いを気にするようになったのです。

 

(11)保険事故

  民間の賃貸住宅に入居する場合、家賃のほかに入居時と数年に1度損害保険(火災保険)に加入した経験はないでしょうか。多くの場合は賃貸借契約によって加入が強制されています。家主からしてみれば、賃貸するマンションなどの建物は大切な財産ですから万一の場合には備えたいというのは当然なことで、このような契約になっています。

  賃借人は、自己の賃借部分のみについて保険に加入するだけですから、共用部分になるエントランス、居室につづく通路などは対象になりません。別途オーナー側で保険をかける必要があるのです。

  私は、物件の管理をしていたときに共用部分の保険の請求をしたことがあります。エントランスのガラスが割られたり、共用廊下の一部が燃えたり(燃やされた?)したときでした。その経験をとおして私が思ったことは、損害保険会社、その代理店の担当者との連携がとても大切だということです。

 損害保険の代理店担当者のなかには加入時や更新時だけひょっこり現れるだけ者もいるようです。できればそういう担当者ではなく、相談について気軽に応じてくれたり、ときどき声をかけてくれたりするような担当者を選びたいものです。例えば、保険が適用される場面なのにそれがわからない場合、請求方法がわからない場合があれば保険料支払いそのものの意味がないからです。また、安いからといって店舗に使用しているのに住居向けの損害保険をかけても当然保険事故の際には保険料が支払われないのですが、そんな契約を締結するようなことも避けなければなりません。(あとで差額を支払うからという加入者がいるようですが、それは都合の良い話で当然認められません。)

 もうひとつ私が経験した例があります。それはあるマンションの入居者からのクレームで上階から水が漏れてきて、居住スペースが水浸しになり、家財道具の故障などの被害が発生したと言うものでした。本来であれば、上階の入居者と直接交渉をする場面ですが、上階の入居者は「知らぬ存ぜぬ」というばかりだということで管理会社のところにクレームが来たという話です。

 私も上階の入居者と話をした結果も同じでした。結局は、被害者の保険で損害を回復し、保険会社が加害者に対する損害賠償請求権を取得するという方法で解決が図られました。この方法を保険代位(この場合は請求権代位)といいます。この方法は、保険会社が保険に入っている人(被保険者)に保険金を支払った場合、保険会社が被保険者の有していた請求権(この場合は加害者に対する損害賠償請求権を代わりに取得するという商法で認められた制度に基づいたものです。この解決も損害保険の代理店の担当者の素早い対応と商品理解の結果によって得られたものだと思っています。

 

(12)賃料改定

  賃料の改定には、当たり前ですが値上げと値下げがあります。同一のテナントや入居者を前提にしてみたとき、事務所、店舗など企業とビルオーナーとの契約の場合、経済状況に応じて値上げも値下げもよくあることですが、マンション、アパートといった居住系物件の借主と家主との契約の場合、あまり値上げという話を聞きません。企業の場合は、経済状況に応じて利益も大きく変化するのに対して、個人の場合、経済状況に応じて収入が大きく変化することが企業の場合に比べて小さいことがその理由だと思います。それゆえ、値下げの要求も企業の場合に比べてあまりおこらない傾向にあります。

  同一のテナントや入居者が契約を延長(更新)する場合、この駆け引きに合理的な根拠をもとにして交渉する例は少ないように思います。実際には「押しが強いか」、「退去する覚悟」といった要素に依存するところが大きいのではないかと思います。

  このほか、テナントや入居者が退去した後に、次のテナント、入居者の賃料設定をするときも賃料改定のチャンスです。一般に値上げがしにくいマンション、アパートの家主はこのときばかりと鼻息が荒くなることが多いようです。

  しかし、実際には人気物件では、値上げをしても大丈夫ですが、人気のない物件は値上げの家賃を入居希望者に示しながら、値引きをしたかのように装って従前の賃料で決めるというのが精一杯だと思います。

  私も賃貸営業をしている頃、よく家主から賃料設定の相談を受けました。少なくとも3ヶ月以上空いている物件は、1割から2割の値下げをお願いしました。その結果、1ヶ月以内に入居者が決まりました。あまり、値下げのお願いばかりをすると営業マンとしての資質を問われることもあるのですが、実際に入居者を早期に決めることさえできれば、その不安を考える必要はないように感じました。

 

(13)賃貸営業

  賃貸営業についても触れてみたいと思います。

  賃貸の営業には、自己所有・管理物件の客付け(貸主)、他人所有・管理物件の客付け(仲介)があります。自己所有・管理物件の客付けには、入居希望者に直接営業をする場合と他の仲介業者に客付けを依頼する場合があります。他人所有・管理物件の場合は、入居希望者をその物件を所有・管理する業者に紹介して報酬を得ます。

  本来、自己所有物件を賃貸する場合、「仲介」というものはありえないのですが、例えば、株式会社A不動産が所有する物件を賃貸する場合、A不動産の代表者が別のB地所という別の不動産業者を介して賃貸したように装い仲介料を請求するという方法もとられることがあります。

  実際にあった悪質な例を紹介したいと思います。

  まずは、あんこ飛ばしといわれる仲介業者の排除の例を紹介します。

  私の勤務していた不動産屋で、居酒屋をはじめたいという人の需要がありました。担当者は店舗の仲介をするため、適当な物件を探してきました。この人にも現地をみてもらい契約をする方向で貸主との調整に入りました。

  すると程なくして、この人から「このたびの件はなかったことにして欲しい」とだけ連絡があり、この契約を成約させることはできませんでした。

  しかし、しばらくするとこの人から例の物件でひどい目にあったので何とかして欲しいという連絡があったのです。どうやら、貸主からこの人に対して「直接契約をしよう」という提案があったようです。仲介業者を使わなければ、貸主も借主も仲介料を支払わなくてよいわけですからこの人もよい話だと考えたのだと思います。

  当然、仲介をしたわけではないのですが、とりあえずおかしなことに巻き込まれないようにするという会社の方針から、トラブル処理係(にされた)の私が話を聞きにいくことになりました。

  事情を聞くと、契約条件のうち、賃貸面積や設備に虚偽の記載があり、クレームをいったのに対応してくれないというもので、およそ私の会社に問題がある内容ではありません。

  私は、仲介業者を使う意味を説明して、今回の件は貸主と借主との間で直接交渉する以外に方法はないことを話しました。本当は、これだけで十分なのですが、仲介業者を排除した貸主にも頭にきていたので、法的な攻撃の仕方も教えることにしました。

  後日、この貸主のことを他の不動産業者に聞いたところ、トラブルを起こすので有名な貸主だったことがわかりました。

  次に、法外な報酬の話をします。

  賃貸の仲介の場合、宅地建物取引業法では、貸主と借主からあわせて1ヶ月分(消費税は別途)を超える報酬の請求はしてはいけないことになっています。

  しかし、実際には借主から仲介料として1ヶ月分(消費税は別途)を受領し、貸主からは広告料として別途報酬を受ける例が多く見られます。もともと居住系の物件の1ヶ月分の賃料は数万円から十数万円といったといったところですから仲介業者からするとあまりおいしい商売ではありません。広告料という別の収入を得ることで何とか利益の上がる商売にしているのです。個人的には、このような脱法行為ともとれる悪しき業界慣行が続く以上、手数料の調整など一定の法改正が必要ではないかと思います。

  私が見た中で一番法外な要求をした業者は、広告料4ヶ月分(消費税は別途)という業者です。この業者は入居希望者にも強引に入居を迫るので有名な業者でした。このような業者から物件を借りた人は、おそらく不動産業者を悪いイメージで捉えるのだと思います。私もこの業者に会社の自己所有物件の仲介を依頼しに行ったときに担当者をチンピラだと思ったくらいです。

  これに関連した話ですが、私は入居希望者のお客様に強引に契約を迫るタイプではありませんでした。かといって、お客様の希望をすべて満たす物件もありませんので、どこで折り合いをつけるかを考えてもらうようにしていました。ある日、若いカップルを数物件案内したのですが、気に入るものがなかったということで帰ってしまいました。社長からは「お前の営業では成果が出ない」などと怒られたのですが、その日の夕方、そのカップルが再び私のところにやってきて、先ほど見た物件で契約がしたいといってきたのです。

  話を聞くと、他の業者も回った結果、同じような物件だったということです。しかし、その業者は強引に契約に持ち込もうとしたため、怖くなり私のところに戻ってきたということでした。

 何事もほどほどにしないといけないということだと思いました。

 

コラム2おわり