不動産関連業界をわたり歩くおじさんの思い出話

コラム1(権利関係の調査)

(1)ホントの権利者はだれ?

  不動産(土地、建物)に限らず、私的な取引の法律関係を考えていくにあたり整理をしておかなければならないことは、①誰が、②どんな内容の権利を、③どんな原因で、④取得又は喪失、変更したか、ということです。

  文章にすると、「誰が」などということは、「当たり前のこと」とか「簡単にできること」といわれてしまうのですが、現実の取引の世界では調査をすることが契約の成否をめぐって重要になることがあります。

  さて、実際に経験があった例でお話をします。

 不動産を担保にして事業資金の融資を受けたいというAさんがいました。

 話を聞くと商品を仕込むための資金が必要で自分の母親Bさんのもつ不動産(自宅の土地、建物)を担保にして融資を受けたいというものです。

  不動産を担保(返済がない場合の引き当て)にして融資(金銭の貸付)をする場合、金銭の貸主(債権者)は、借主(債務者)に融資をする条件に借主又は借主のために自分の不動産を担保にしてよいという人(担保提供者とか、物上保証人などといわれます)の所有する不動産を担保に取ります。金銭の貸借契約に加えて、この貸金のために担保を取りますという契約(多くの場合は、返済がないときに裁判所を通じて担保となっている不動産を強制的に売却して回収ができるというもの=抵当権設定契約)を結びます。注意しなければならないのは、借主以外の人の不動産が担保になるときは、その不動産の所有者と金銭の貸主が直接の契約をしなければならないということです。

 このような話はよくある話ですから、融資の手続き(担保を取る契約をする準備)を進めるためBさんに会うことにしました。

 AさんとともにBさんに会うと、80歳前後かと思われる老女で不思議なことにAさんとBさんの顔や体つきは似ていませんでした。また、本人を確認するための書類も何もありません。Bさんに契約の話や干支の確認などをすると正確に答えます。そこで、私はAさんとの昔話に話題を変えました。すると、それ以降、BさんもAさんも話をしなくなってしまいました。

 おそらく、Bさんは別人(成り代わり)だったのです。私は、AさんとBさんに昔の写真などでAさんとBさんを確認ができたら融資手続きを進めますと伝えたところ、その後連絡がなくなってしまいました。

 もし、あのまま融資をしてしまったら、、、

 Aさんはお金を手にして、事業を続けることも可能でしょうが、別人をしたてるくらいですから、そのままいなくなる可能性が高いと思います。

 では、Bさんの不動産を強制的に売却できるのか、答えはできません。なぜなら、Bさん本人の契約ではないからです。担保を取るという契約は成立していないのです。

 このように「誰が」という問題は実務上とても重要なポイントになるのです。

 ところで、Aさん、Bさんの行為は犯罪ではないかという方がいらっしゃると思います。

 その通りで詐欺罪(刑法246条)が成立します。

 しかし、逮捕されたり、処罰を受けたりしたところで融資した金銭が戻るわけではありません。また、民法上も、融資した金銭の返還請求、その他損害賠償の請求ができますが、Aさんのような人がそのような支払いの能力があると思いますか。

 事前の調査、これが一番大切です。

 

(2)ホントに買うの?

  これも「誰が」ということに関連する話です。

  私が上司の指示で不動産売買にかかわったとき、ある財団法人が自社所有物件の高値で購入を希望しているので手伝ってくれといわれました。その上司からは、「(買主の素性が)怪しい先だが、高値で購入するという話なので慎重に進めたい」いう話でした。

  その上司が購入希望者のところに交渉に行くと、交渉中にその財団の事務員が「大臣から電話です」などということ(演出?)があったそうです。

  上司と私は、どのように進めていくかについて話し合いました。怪しさはあるものの高値で買い取ってくれるという点が魅力的だったからです。

  その話し合いの結果、「財団法人の実態」と「売買が可能かどうか」を調べて問題が無ければ進めていくということになりました。

  財団法人というのは、お役所の許可を受けて設立する公益の目的の法人です。法人とは、われわれ人間のように権利義務が帰属する能力を法律で認めたものですが、その能力は当該法人が達成しようとする目的の範囲でしか認められません。

  財団法人であれば、「公益」が目的ですから、不動産を売買して利益を上げることなど該当せず、多くの場合は、財団の資産として購入し、活動に利用することくらいしか考えられません。

  ところで、ある財団法人の場合、上司が調べたところ、不動産の購入目的が不明でした。また、財団の役員の数人は別の詐欺事件で逮捕歴のある人物でした。さらに、購入に必要な財団法人内部の手続(議事録など)は、こちらが指摘して提出してきたのですが、これが偽造なのかどうか迷ってしまうようなものでした。

  最後に、購入資金の証明を求めたところ、通帳の写しを提出してきたのですが、これも偽造のような痕跡がありました。

  この話の結論は、購入直前に財団法人の方から断りがあり成約しなかったのですが、私が思うところ、もし、調査もせずに売買を進めていたら、不動産を売却し、その所有権は財団法人に移り、一旦、売却代金は我々の元に入るのでしょうが、後日、財団法人側から売買の不成立ないしは無効を主張されるようなことになったのだと思います。そのときは、すでに不動産は転売され、売買代金は、メンバーが持って逃げればよく、残された関係者が後始末に奔走する日々が続くだけなのです。

  余談ですが、この話、仲介業者が絡んでいました。仲介業者は、サラリーマンの年収の数倍の手数料の入る大きな取引に心躍らせれ、契約も終わっていないのに財団法人のメンバーを接待したり、金銭を貸し付けたりしたそうです。そして、契約が破談になった後に私がこの人に連絡をしたところ九州の山の中で仕事をしていました。

 

(3)マンションやビルにテナントを残したまま売買する

  これは、「どんな内容の権利を」という話です。このでは、「物権」と「債権」についてお話をするためにテナントのいる物件の売買を例にとりあげます。

  新築のマンションや一戸建てを居住目的で販売業者から購入する場合は、販売業者(売主)と購入希望者(買主)との間でその物件についての売買契約を結びます。決済時には、販売業者は物件の引渡し(物件の鍵や説明書、所有権を移転するために必要な書類など)を行い、購入希望者は、売買代金の支払いを行えば売買契約は完了します。

  ところが、居住ではなく、投資(利殖)目的ですでにテナント(借主)が入居するマンションやオフィスビルを1棟丸ごと購入する人もいます。このような物件を収益物件ということもあります。

  収益物件の売買は、その収益物件の所有者と購入希望者とが売買契約をして決済をしてもそれだけでは終わりになりません。所有者とテナントとの間にあった契約関係なども承継しなければならないからです。

  少し別の言い方をすると、物件の売買はその当事者との間で物件の所有権を移転させるにすぎず、所有者とテナントとの間にあった賃貸借契約が当然に承継されるかどうかという問題とは別のものだということです。それゆえ、賃貸借契約の承継の手続が終わってようやく取引が終了したといえるのです。

  テーマである「どんな内容の権利を」という点から説明します。

  購入者に所有権が移転すれば、元の所有者やその所有権を争う必要の無い人に対して、購入者はその権利が自己のものであることを主張できます。このように特定の物について自己がその物を直接的排他的に支配できる権利を「物権」といいます。不動産取引でよくつかわれる「物件」とは意味も違います。

 それに対して、契約のようにある特定の者と別の特定の者とが一定の行為(給付といい、賃貸借であれば、貸主は物件を利用させる行為、借主は利用の対価を支払う行為)をすることを内容とする権利を「債権」といいます。この債権は、ある特定の者と別の特定の者との間でしか効力がありません。

 それゆえ、テナント付物件の売買では、物件の所有権が移転したからといって、当然に契約関係が移転するとはいえないことになります。

 では、賃貸借関係はどうなるのか。

 まず、新たな所有者になった購入者は、従来のテナントに対して賃料の支払いを求めることができるのか、これは、元の所有者が契約当事者であったテナントに通知をするか、テナントが購入者を新たな貸主になったことを承諾する必要があります。

 他方、従来のテナントが新たな貸主から退居を迫られることはあるのかについては、借地借家法などでテナントを保護する規定があるため、その可能性はほとんどないといえます(長期滞納や契約違反があれば別です)。

 また、実際の取引では、賃貸借契約のほかに、電力会社が電気設備などを当該物件に置くための契約、ケーブルテレビやネット回線を引くための契約、警備会社との契約、物件の管理契約、自動販売機の契約、自治会との取決めなどなど付帯する契約の承継にも気をつける必要があります。

 

(4)家賃滞納者との戦い

  今度は、「どんな原因で」、「取得又は喪失、変更したか」にまつわる話をしましょう。

 物件を購入する場合、当該物件の所有者との間で売買契約を結び、当該物件の代金を支払って引渡しを受けることで当該物件の所有権を取得することになります。このとき、「どんな原因で」は、売買契約によって、「取得又は喪失、変更したか」は、所有権を取得したということになります。

  「どんな原因で」を法律要件、「取得又は喪失、変更したか」を法律効果といいます。

  法律要件は、売買契約のように当事者の意思表示を内容とするものもあります。売買契約では、売主は買主に取引対象である「特定の物」を引き渡す義務を負い、買主は売主に代金を支払うという義務を負います。民法に規定があります。

 これに対して、交通事故の被害者が加害者に対して損害賠償請求をするときのように、ある一定の事実の発生が要件になるものもあります。これも、故意又は過失によって他人の権利を侵害した者はその人に対して損害賠償の責任を負うという民法の規定によるものです。

 さて、家賃滞納者の話から離れてしまっていましたが、ここからはその話をします。

 家賃滞納者は、なんらかの理由で貸主に賃料を支払わなくなってしまう人々ですが、いろいろなパターンがあります。

 私が経験したパターンをあげますと、

 ①支払日の資金繰りが急に厳しくなったため、数日の猶予を求めるタイプ

 ②一旦支払いが滞り、その後も支払いのタイミングが遅れるタイプ

 ③一旦支払いが滞り、その後督促をするまで支払いをしないタイプ

 ④一旦支払いが滞り、その後督促をしても支払いをしない又は支払いをできないタイプ

 ⑤貸主側の過失などを訴え、その問題解消まで支払いをしないタイプ

 に分類ができます。

  まず、①の例は、一過性のものなので、すぐに問題はなくなります。②の例は、一旦収支のバランスが崩れた人が陥ります。私の場合、数ヶ月をかけて通常の賃料に上乗せさせる形で解消をさせていました。これができないような人は退居を前提にした話をしなければ、後で大変になってしまいます。

  問題は、③、④、⑤です。はじめに気をつけなければならないことは、督促の時期です。滞納が長期にわたっている場合、家賃の請求権が消滅時効(一定の時間の経過で借主から家賃の請求権が法的に消滅したと主張されること)にかかっていないかという問題です。

  私の場合、まず滞納者に会って話をしたときには、滞納の事実を話し、たとえ千円でもよいので、滞納者から滞納額の一部を回収し、全体の債務を承認させてしまいます(全体額の一部の支払いがあったことを記載した領収書を手交します)。そうすることで、法的には消滅時効が中断します。債務の承認という法律要件を満たすことで、消滅時効の中断という法律効果が発生したのです。私の経験では、4年半の滞納というのが最長記録ですが、貸主にも長らく放置するという問題があったように思います。

  次に、退居を迫るかどうかの判断をします。賃貸借契約は、賃料を支払うことが入居の要件になっている訳ですから、支払いが無ければ退居を迫ることを考えなければいけないのです。これは、契約違反が法律要件となって、契約解除=退去が法律効果となります。

  退居を迫るかどうかの見極めは、今後の継続支払いの可能性と信頼関係の維持ができるかという2点です。保証人などに支払いをさせる場合は、退居を迫る方がよいと思います。

  もっとも、退居を迫ることは容易なことではありません。

  ある老人に退居を迫った例では、次の入居先で苦労して、私も支援しながら半年くらいかかった記憶があります。

  その次は、滞納家賃の返済計画です。③の人の場合、督促されないと駄目な人が多いので、定期的に訪問をすると滞納は解消します。逆に訪問を怠ると他の支払いをしたなどと言われ、再び滞納がはじまります。私は、そういう人のところは頻繁に訪問をするタイプだったので、滞納はなくなりました。

  ④の人は確信犯です。ある滞納者はドアが開けっ放しなっているのにもかかわらず私の呼びかけに答えませんでした。そうだといって勝手に家に入れば、住居侵入罪になってしまうので、一旦事務所に戻りました。契約書を確認したところ、保証人が近所にいて家を所有していることがわかりました。

  私は、その保証人に代わりに家賃を支払うように求め、求めに応じないときは所有している家に強制執行をかける内容の通知をしました。

  数日後、顔にあざ(多分、殴られた痕)ができた滞納者が事務所を訪れ、お詫びを言いにきました。以降、支払いは遅れることなく、滞納額は分割して支払われました。

  ⑤の例は、借主のいいがかりのような場合もありますが、私の経験では、家主がエアコンの交換をすると約束しながら、その約束が守られていないという理由で滞納している例がありました。家主に確認してみるとその通りでしたし、滞納者も支払いができない訳ではなかったので、一部の家賃は免除するなど契約の変更を行って問題の解決を図りました。この契約の変更が法律要件で、家賃の免除などが法律効果です。

 

(5)登記簿は決済当日にも確認

 登記とは、不動産の権利関係(土地や建物の所在、所有者など)や会社をはじめとする法人の実体や権利関係(会社名、住所、設立の目的、代表者、役員)など一定の情報を公に示すためにできた法律上の制度です。不動産の権利関係を公に示すための登記が不動産登記と呼ばれ、会社の実体や権利関係を公に示す登記は商業登記と呼ばれます。これ以外にも登記の制度はあります。

  不動産の売買や不動産を担保にして融資する場合には、登記上に表れた情報を元に権利関係を整理したり、融資の審査を行ったりします。

  通常は、登記を信頼して取引することに問題はないのですが、日本の不動産登記制度では、登記簿(登記されている帳簿)に権利者として登載されている人をもって、法律上の正当な権利を有している者という効力を認めていません。別な言い方をすると、登記簿に権利者として登載されていなくても法律上の正当な権利を有する者が存在する可能性があるということです。

  例えば、Aさん所有の物件をBさんに売却したが、Bさんは登記の名義を変更していない場合や株式会社CがDさんにDさん所有の不動産を担保に差し出す(抵当権を設定する)ことを条件に融資をしたが、抵当権設定の登記はしていない場合などが考えられます。

  ここで気をつけることは、契約があれば所有権が移転したり、抵当権が設定されたことになり、登記をすることが権利関係を変動させる要件にならないということです。

  では、登記は何の意味があるんだということになりますが、それは当事者(先の例では、AさんとBさん、株式会社CとDさん)以外の人に対して権利を主張するために必要なもの(対抗要件といわれます)だと説明されています。AさんとBさんの例で言えば、AさんがBさんのほかにXさんにも同一物件を売却した(いわゆる二重売買)場合、物件は1つしかなく、両者に権利があるという訳にもいきませんから、先に登記した方が権利者になるという仕組みです。売買のタイミングが早い遅いということではないことがポイントです。当然、Aさんには権利が移転できなかった者に対する法律上の責任が発生します。

  少し前置きが長くなりましたが、ノンバンクで融資実行をするときに経験した登記にまつわる話があります。

  会社に対する不動産担保融資の場合、当然審査の段階(融資実行の数週間から数日前)で会社の登記(商業登記)と担保不動産の登記は十分確認をします。しかし、実務上は、当日の融資直前(融資実行が朝一番のときは前日の最終時点)に再度登記の確認をします。司法書士にお願いする場合が実際には多いと思います。

  なぜでしょう。答えは、審査から融資実行の間に、会社の登記であれば、代表者を変更して別人が契約当事者となり、融資の実行を受けた後に契約不存在ないしは無効を主張する例(お金を借りた本人は当然逃亡する)、不動産の登記の場合であれば、すでに第三者に売却して抵当権設定の登記ができないようになっている例が考えられるからです。

  私の経験でも、このような理由で直前に融資を中断したケースが数例あります。

  そのような経験があってからしばらくして、私が夜寝ているときに「実行できない・・・」などと大きな寝言を言ったことがあったようです。忌まわしい記憶です。

 

(6)怪しい登記?

  ノンバンクで不動産担保融資の審査をしていた頃の話です。

  不動産担保融資の審査事項はいくつもあるのですが、私の所属部署では、対象となる不動産の調査と価格の査定を行いました。

  毎日多くの不動産の調査と価格の査定依頼が来るのですが、多くの案件は、査定金額を上回る資金需要があるか、調査の結果、担保としての価値がない物件(万一、返済ができない場合に不動産を売却しようとしても、簡単に売れない)という理由でお断りをします。

  詳細な理由を答えるとトラブルになるので、単に審査上の理由でという断り方です。

  ただ、これ以外にも「怪しい」という理由で断る案件があります。

  ここでは、不動産の登記が「怪しい」というものをご紹介しましょう。

  Aさん所有の特定の不動産をBさんに売却する場合、登記簿の所有権に関する事項を記載する箇所(甲区と呼ばれます)には、【登記の目的】欄には「所有権移転」という記載がなされ、登記の【原因】欄には「平成○年○月○日 売買」という記載がなされます。ところが、この【原因】に「錯誤」、「真正な登記名義の回復」という文言を見かけたときは「怪しい」との疑いを持ちます。この登記がされている場合、前所有者や前名義人との間に何らかのトラブルがあったものと考えられるからです。一切融資を否定するものではありませんが、少なくとも納得のいく説明を求めなければ、トラブルに巻き込まれる可能性が高いと思います。

  また、融資の審査段階で担保不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を提出してもらうのですが、多くの場合は、権利関係の履歴の全部がわかる「全部事項証明書」というものを提出してきます。ところが、なかには「現在事項証明書」、「要約書」、「全部事項証明書」の一部だけという過去の権利関係が記載されていないものを提出してくる人がいます。なかには、わざとコピーやファックスを用いて不都合な箇所を加工する者もいます。

 当然こちらは不思議に思う訳で、全部事項証明書をこちらで取得して確認すると「錯誤」や「真正な登記名義の回復」という部分を見せたくない場合、過去に税金などの滞納が原因で「差押」を受けていたなどという不都合な(融資審査で不利になる)事実を隠している場合がほとんどです。

  このような場合は、現地調査や価格査定をする以前にお断りをしなければなりません。時間も無駄になりますからね。

 

(7)公図、地積測量図、建物図面で気をつけること

  登記簿は、法務局に備え付けられているものですが、登記簿以外にも法務局には不動産登記法17条に規定する地図又はこれに準ずる図面(公図)(一般的には「公図」とまとめて呼ぶことが多いように思います)、地積測量図、建物図面が備え付けられています。

  法務局に備え付けられている地図は、一般的な地図とは異なり、各地方自治体が定める住居表示(例えば、○○町1丁目1番1号)とは別に登記所が定めた地番という番号がつけられており、この地番の位置や形状などを示すものになっています。

  地積測量図は、各地番の面積や境界などが示されています。

  建物図面は、登記所が各建物について番号をつけ、所在、方位、配置、各階の平面、縮尺などが示されています。

  いずれも手数料はかかりますが、誰でも法務局、インターネットで取得することができます。

  最近は、プライバシー権、個人情報の保護などという権利が主張されることもありますが、不動産の所有という権利をどのように示すかという制度の問題ですから、今のところはどうしようもありません。

  この公図、地積測量図、建物図面ですが、不動産取引や不動産担保融資の調査ではどこに注意するとよいのかを説明します。

  まず、公図ですが、必ず法務局で直接写したもので確認をするべきです。私が実際に経験した例ですが、不動産担保融資の依頼を受けて各資料の提出をお願いしたところ、資料がすべてコピーでした。コピーが駄目ではないのですが、なんとなく不安に感じたので法務局で確認をしたところ、実際のものに手を加えたもの(変造)でした。変造は、対象物件と道路の間に他人の所有部分があったのですが、その部分を消すという手口でした。その理由は、担保にしようとした物件は法律で定める道路に接していないため、再建築ができないし、道路に出るまでに他人の敷地をまたぐことになり、トラブルになることが容易に想像できるため担保にならないからです。

  コピーやFAXの場合には注意したいものです。

  次に、地積測量図ですが、境界などを現地で確認しておくことが大切です。

  これは、不動産取引での話ですが、隣地の所有者が境界のピンを抜いて捨ててしまったり、移動させてしまったりすることがあるのです。そのような人は、しばらく経過してからその部分について、買取や解決金の支払いを要求してきます。対処が遅れると取得時効を主張される場合もあります。

  最後に、建物図面のお話をします。

  建物の現物を見て満足するのは危険です。建物図面に載っていない物件がある場合、反対に対象物件がない場合もあります。形状が異なることもあります。

  図面に載っていない物件は、違法に建てられている場合があります。また、その物件の所有者が異なることもあり、後にトラブルに巻き込まれる可能性があります。

  図面にある物件がないという場合は、「滅失」の登記をすませていない場合です。再建築などの障害になることがあるので、確認が必要です。

  形状がことなるというのは、違法な増築などが考えられます。

  いずれにせよ、権利関係が不明確なままで取引をすると後で取り返しのつかないことにもなりかねません。十分に注意をしたいものです。

 

(8)担保提供者の納税状況に気をつけろ

  不動産というのは、土地であれ、建物であれ、所有者が直接利用したり、誰かに賃貸したりという経済的な活動を何もせずに放置しておくとマイナスになることがあります。所有者には毎年不動産にかかる固定資産税を納めなければならないからです。土地であれば、土地の価格が上がることもあるでしょうか、建物は減価するのが一般的です。

 ここでは、不動産を担保にとる場合の不動産所有者の納税の確認をしなければならないという話をします。

 納税は国民の義務ですから、当然支払わなければならないのですが、これを法律が要求する時期(法定納期限といいます)までに支払わない(支払えない)人がいます。このような人でも税務署などに相談に行けば、ある程度は支払いの方法や時期について配慮をしてもらえますが、そのまま無視しつづけるなど悪質な場合は、その人の財産を差押、その後強制的に売却してその支払いを強制します。当然不動産もその対象となる財産です。

 ところで、不動産担保融資の担保不動産に差押の登記があれば、そもそも担保にとることはないでしょう。

 では、担保に取った後(抵当権や質権の設定後)に差し押さえられる可能性はないのでしょうか。

  答えは、ありえます。また法定納期限を過ぎて抵当権などの登記した場合は、租税債権が優先してしまいます。このような悲劇をうまないためには、担保不動産の調査とともに所有者の納税状況(できれば、過去5年分)は確認しておく必要があります。

 

(9)役所などの調査も重要

  不動産を自己のために購入する場合は、現地は当然見るでしょうし、価格の妥当性やその土地が法律上どんな制限を受けているのかを自分で直接あるいは業者を通じて確認することが通常だと思います。

  不動産を転売して稼ぐ業者や不動産担保融資をする者であれば、調査しないことが命取りになることもあります。

  実際に経験した例ですと、市街化調整区域といって住宅などの建物の建築などが制限される地域があります。市役所などにある地図で確認すると簡単にわかるのですが、これをしない人がいました。後に、案件を再調査したところ、あっさりこの事実が判明し、担保になっている不動産は事実上売却できないものだとわかりました。

  また、別な例では、住宅の開発用地だということでライフラインを調べたところ、上下水道が通っていないことがわかったこともあります。

  通常の生活をしている上では、わからない場合もありますから、基本をおろそかにせず、きちんと調査をすべきだと思います。

 

(10)現地確認をしないと

  不動産を直接自己のものにしようとする目的ではない不動産担保融資の場合、融資前、融資中の現地確認の必要はあるのでしょうか。

  銀行の場合はわかりませんが、ノンバンクの場合、面倒でも行った方がよいと思います。

  私が実際に経験したことですが、ある不動産開発業者が一戸建て数件分の分譲用地を購入する資金を融資した案件の途中経過を確認しに現地調査に行ったときのことです。

  地図を頼りにその場所に向かいました。もともとは農業が中心の街だったのですが、少しずつ都市化しているようにも見えました。現地に近づいたのですが、対象地が見当たりません。車からの見た目では、地図の道路が途中で切れているように見えるのです。しかし、そうはいっても既に担保物件になっている以上、対象物件を探さないといけないということでその切れているあたりに近づきました。すると切れていたかに見えた道は急な下り坂になっていて4、5メートルの崖の下に分譲地が見えてきたのです。

  地図ではわからなかったことです。そんな土地でも購入者がいたようで、私は売れ残りの1区画30坪くらいの土地を見て帰ることにしました。ところが、分譲地を1回りしても30坪くらいの更地は見当たりません。地図と最新の公図をもとに場所の特定をしたところ、隣の庭ではないかという程度の広さ、おそらく10坪弱の空き地がありました。しかも崖の部分です。その後、この案件の処理が大変だったことは言うまでもありません。

 

(11)不動産取引には物語がある

  不動産担保融資をノンバンクから受けようとする人の多くは、銀行からの借入ができない人だと思わなければなりません。一般に、ノンバンクの金利は銀行に比べて高いものになっているのがその理由です。もっとも、銀行からの借入ができない理由は様々で、不動産業者がある物件を急ぎで購入したいのに銀行の審査が間に合わないだとか、競売物件を取得したいが銀行の融資基準からははずれてしまうなどという顧客の属性の善し悪しに関係しない場合も多く存在します。

  しかしながら、なかには顧客の属性が理由で銀行取引ができない何らかの事情がある人やはじめからノンバンクを欺き金銭を受け取って逃げることを考えている人もいます。このような人にはどのように対処すればよいのでしょう。

  かつて、私がノンバンクの営業をしていた頃、融資を受けたいという人のなかには、「銀行でなく、御社で借りてみたかった」と調子のよいことをいう人がいましたが、その理由が答えられない人は、その時点でお断りをしていました。銀行では審査が通らない人か騙しに来ている人だと思われるからです。そのような人には融資を受けた場合の返済までのストーリーを聞けば意図がよくわかります。「融資を受けたいという人にとって利益となるか」、「返済の元になる資金を容易につくることができるか」のどちらかのつじつまが合わなくなっているものです。とくに「貴社(ノンバンク)にとって利益になる」という話は、およそ世の中の経済活動ではありえない話ですから、審査担当者であれば「どうやって騙すのだろう」というような心構えが必要です。

  落ち着いて考えれば、架空の投資話を素人にする詐欺師と同じ構造ですよね。

 

(12)地元の人や地元業者へのヒアリングでわかること

  私がノンバンクで新規案件の審査をしているときに、実際にあったことです。

  ある不動産業者が一戸建てを格安で仕入れて転売するので、購入資金を借りたいというのです。簡単な例で説明すると2,000万円で中古の一戸建て(空き家)を取得し、3,000万円で売却するというお話です。不動産取引にかかる税金や専門家の費用、修繕の費用、金利の負担などを考えても3ヶ月から半年で売却できれば、数百万円の利益が出ます。また、売却予定金額の3,000万円も相場から見ておかしくない価格でした。

  私は、ビジネス・ストーリーもしっかりしているので早速現地調査をして融資審査を進めよう、、、などと考えたのですが、少し違和感がありました。それは、なぜノンバンクにいきなり相談したんだろうというという点でした。そして、その問題は地元の不動産屋に電話で相場のヒアリングをしたときに簡単にわかることになりました。

  なんとその物件は、未解決の強盗殺人のあった家そのものだったのです。そんな家は相場の価格では売れませんよね。私は、融資を受けたいという不動産業者に審査上の理由ということで融資のお断りをしました。ヒアリングで聞いたことをそのまま伝えると大事なビジネスの情報を喋ったのかなどと因縁をつける人も多いからです。

  また、似たような例になりますが、東北地方のあるところで、不動産業者が物件の転売で利益をあげるというビジネス・ストーリーで購入物件を担保に融資をした案件がありました。ところが、半年、一年を過ぎても売却できません。不動産業者も経営状況がどんどん悪くなっていました。

  私は、弁済期限を延長する審査をしていたのですが、理由がわからなかったので地元の別の不動産業者に電話で話を聞いてみました。わかったことは、購入物件は自殺者がいて地元ではニュースになった有名な物件だったということです。購入した不動産業者も当初の融資担当者、審査者もなぜ調べなかったのか不思議でなりません。

  いずれにせよ旨い話はなかなか見つからないようです。

 

コラム1おわり